「支付宝」と「Wechat Pay」 導入するならどっち?

天秤ばかりを持つ女性の像

日本経済新聞は2017年8月29日、「中国で現金を持ち歩かない人が急増している」と報じました。中国ネットサービス大手のテンセント(騰訊控股)が利用者に行った調査では、100元(約1,600円)以下しか持ち歩かないと答えた人が4割、全く現金を持たずに外出すると答えた人は全体の14%にのぼったそうです。

これはスマートフォンを使った決済が広く普及したためと考えられます。その背景には、政府がアリババ集団(阿里巴巴集団)やテンセントといったネット企業の金融サービス参入に対し、寛容な姿勢を示してきたことがあるようです。

中国で人気の2大スマホ決済「支付宝」と「Wechat Pay」

支付宝とWechat Payのロゴ

今や中国はスマホ先進国などと言われています。特に決済に関しては「支付宝(アリペイ)」と「Wechat Pay(微信支付/ウィーチャットペイ)」が非常にポピュラーな手段として定着しています。日本では10年程前におサイフケータイが登場していますが、中国のように爆発的な普及は見られませんでした。この違いは何なのでしょうか?

「支付宝」と「Wechat Pay」はQRコード決済を採用しています。おサイフケータイのような非接触方式の場合、専用のカードリーダーが必要になりますが、QRコード決済ならレジのバーコードリーダーで顧客のスマホに表示されるQRコードを読み取るだけなので、追加の設備投資は不要です。もし店舗にバーコードリーダーがなかったとしても、店舗用のQRコードをレジ付近に掲示し、顧客のスマホで読み取ってもらえば決済ができます。

中国では屋台の店先やタクシーもQRコードを掲示していて、何でもスマホで代金が支払える環境になっています。また日本でもサービスが開始されているモバイク(摩拝単車)のようなシェア自転車サービスにも発展しています。いまだに現金払いのみの小規模店舗が多い日本と比較すると、店舗のインフラ整備がしやすかったことが急速に普及した要因と言えるでしょう。

その一方で、中国では偽のQRコードを店舗に掲示して料金をだまし取るという詐欺事件も発生しており、オペレーションの面ではまだまだ改善の余地がある印象です。

<参考>
Yahoo!ニュース:シールを貼るだけのお手軽詐欺 アリペイの偽QRコードで1万元を盗む(2017/8/22)
livedoor NEWS:中国で急速に進むスマホ決済の実態とは? 数十円でも屋台でもスマホ払いする社会の破壊力(2017/6/1)

「支付宝」とは

支付宝ホームページより

「支付宝(アリペイ)」は中国版の楽天市場などと言われるネットショップモール「淘宝網(タオバオ)」を運営するアリババ集団(阿里巴巴集団)の決済サービスです。中国のネット通販はサービス開始当初、お金を振り込んでも商品が届かなかったり、不良品で返品したくても連絡がつかなくなるなどのトラブルが発生しがちでした。

そこでアリババ集団は利用者の「支付宝」アカウントにお金をチャージさせ、商品を購入する際は「支付宝」に代金を支払い、販売業者は「支付宝」から送られる支払完了通知をもって商品を発送するという仕組みを作りました。利用者は届いた商品を確認し、不良品だったり注文と違う品物が届いた場合には返品や再発送を申し出ることができます。現在はアカウントに銀行口座を紐づけ、口座から直接引き落とすことも可能です。

この方式なら利用者が支払った購入代金を「支付宝」が一時的に預かるため、販売業者側に何らかの問題が起きればすぐに返金してもらうことができ、安心してネット通販が利用できるというわけです。「支付宝」の仕組みのおかげで、ネット通販は便利で安心かつ身近なサービスになりました。

日常のさまざまなシーンで使える「支付宝」

中国の街頭

2004年に「淘宝網」から独立し、アリババグループの子会社としてアントフィナンシャルが運営するようになってから、「支付宝」はオフライン決済にも進出し、実店舗でも頻繁に使われるようになっています。

店頭での使い方はシンプルです。スマホアプリに表示されたQRコードをレジで読み取ってもらい、アカウントの残高から支払をします。このQRコードは1分ごとに切り替わり、すぐに使えなくなります。また店舗が提示するQRコードを読み取って購入金額を利用者が入力し、決済完了画面を店員に見せるという方法もあります。

「支付宝」は友人への送金が無料で、即座に反映することが可能です。また簡単なSNS機能もあり、チャットで買い物を頼んだその場で送金することもできます。他にも水道代や電気代の支払い、投資、タクシーの配車、飛行機・ホテルの予約、映画のチケット購入、出前の注文などにも利用でき、人々の生活に密着したサービスになっています。

スコアリング機能の「芝麻信用」で評価

芝麻信用のロゴ

「支付宝」には「芝麻信用(ゴマスコア)」という仕組みがあり、個人の信用を350~950点ま での得点で表します。アリババ集団が運営する「淘宝網」や「天猫(Tモール)」の購入データも活用され、使い方次第でスコアが上がります。

点数が上がると、賃貸住宅サイト「小猪短租(シャオジュー)」で敷金が不要になったり、全国展開のレンタカーサービス「神州租車(シェンツウ)」でデポジットが不要になったり、シンガポールやルクセンブルクのビザが取りやすくなるといった特典があり、利用者は特典を上げるためにこぞって「支付宝」を利用するというのです。

4億人の中国人に利用されていると言われ、一時期はスマホ決済のシェアは8割とも言われました。2017年9月には日本法人であるアントフィナンシャルジャパンが、「支付宝」と同様のサービスを日本人向けに展開するという報道が出ており、世界的に勢力を広げていくことが予想されます。

<参考>
Airstair:中国で爆発的に普及するアリペイのすごさに迫る
SeeChina365:アリペイ(Alipay・支付宝・アリペイウォレット) とは?使い方まとめ紹介
RISKMONSTER:中国版個人信用評価スコア「芝麻信用」
ZDNet Japan:中国の社会信用スコア「芝麻信用」で高得点を狙うネットユーザー

「Wechat Pay」とは

Wechat Payの使用イメージ

「WeChat(微信/ウィーチャット)」は中国版LINEと称され、約6億人の中国人が毎日利用するという巨大SNSです。テキストと音声でチャットができます。先日訪れた上海では、文字を入力する手間が省けるためか、音声を送るのが主流の様子でした。特に地下鉄車内では相手のメッセージを聴き、スマホに向かってメッセージを吹き込む人を多く見かけ、文化やマナーの違いを実感したものです。

また「Wechat」には「紅包(ホンバオ)」と言う送金機能があります。これは中国の伝統的な習慣に由来しており、日本のお年玉やおひねり、ご祝儀のようなものです。「Wechat」に登録しているメンバー全員や特定の人物に電子マネーを配ることができます。配れる金額は0.01元~200元までで、一定の金額だけでなくランダムな額を送ることもできます。受け取った側は開封してみないといくら入っているかがわからないため、ラッキーマネーとも言われています。

さて、この「WeChat」に付随する決済サービスが「Wechat Pay(微信支付/ウィ―チャットペイ)」です。運営会社のテンセントが2014年からサービスを開始し、それまでNO.1のシェアを誇っていた「支付宝」と肩を並べるサービスとして定着しています。決済の手順は「支付宝」とほぼ同じで、バーコードにスマホをかざして読み取り、その後、店主から聞いた金額をスマホに入力するだけで、アカウントに紐づけられた銀行口座からダイレクトに引き落としをします。

「Wechat Pay」が急速に広まった理由

スマホを操作する女性の手

「Wechat Pay」が破竹の勢いで広まったのは、やはりコミュニケーションアプリとしての「Wechat」ユーザーが非常に多かったことが理由の1つと考えられます。「Wechat」は9億人近いユーザーを既に有しており、毎月のアクティブユーザ数はおよそ5.5億人とも言われます。日頃からコミュニケーションツールとして利用しているため、ユーザーに受け入れられやすかったと言えるでしょう。

テンセントは「Wechat」に決済機能を盛り込む一方で、人海戦術によってあらゆる店のレジに自社のスマホ決済専用の2次元バーコードを貼り付け、ユーザーをスマホ決済に誘導したと言います。決済金額は「支付宝」に及ばないものの、8.3億人の決済ユーザーを獲得しており、株価も急上昇を遂げています。

<参考>
Wechat Lab:Wechat紅包(ラッキーマネー)を使った集客モデル
日本経済新聞:スマホ決済 中国8億人に ネット大手テンセント(2017/3/24)

【参考】「銀聯カード」とは

銀聯カードのロゴ

「銀聯(ぎんれん)カード」は、日本ではクレジットカードと同様に扱われていますが、実態はデビットカードです。銀行口座から直接引き落としをするため、口座残高を超える支払いはできません。中国国内では大都市から地方都市まで2,000万店以上の銀聯加盟店あり、カードの発行枚数は50億枚とも60億枚とも言われています。発行枚数が非常に多く、最近では国際ブランドの1つに数えられることもあります。

中国で発行された銀行カード(キャッシュカード)のほとんどが銀聯カードのデビット機能を持っており、2014年まで日本での買い物の主流は現金か銀聯カードでした。現在は中国国内でスマホ決済が主流になりつつあり、その流れが日本にも押し寄せています。

ちなみに日本国内でも、中国を旅行焼出張で訪れる日本人向けに、銀聯ブランドが付帯されたクレジットカードが発行されています。三菱UFJカードや三井住友VISAカードなどで申し込むことができます。

「支付宝」と「Wechat」、どう選ぶ?

比較イメージ

「支付宝」と「Wechat」の決済金額を比べると、ECサイトでのシェアが大きい「支付宝」が優位のようですが、運営会社テンセントの株価は「支付宝」を運営するアントフィナンシャルを抜いて、今や中国No.1のIT企業です。日本でも「支付宝」に続けとばかりに「Wechat Pay」を導入する店舗が増えつつあります。

日本で「支付宝」を展開するアントフィナンシャル・ジャパンは、加盟店に「支付宝」以外の中国系決済サービスの併用を認めておらず、先日も「支付宝」と「Wechat Pay」をまとめて導入できるNIPPON PAYについて、「決済サービス停止警告書を送付」と題したプレスリリースを発表しています。こういった現状を踏まえると、国内で導入する場合、「支付宝」か「Wechat Pay」のどちらを選ぶべきか考えなければなりません。

「支付宝」は高額決済向き?

「支付宝」は使えば使うほど「芝麻信用」のスコアが上がります。「芝麻信用」はシンガポールなど数カ国のビザ発行にも利用されていますし、良いスコアがつけば、中国ではなかなか持つことが難しいクレジットカードを発行してもらえる可能性もあります。

今年8月にネットニュースをにぎわせたシンガポールの高級車自販機も、アリババ集団の手によって、来年にも中国にお目見えする予定です。購入に際しては「芝麻信用」のデータをもとに審査が行われ、必要な要件を満たした購入者は10%の頭金を支払えば購入して乗って帰ることができ、残金は「支付宝」で毎月分割返済するという構想のようです。

「支付宝」は通販や公共料金の支払いだけでなく、投資にも使えるので、利用者が多額の現金を預けている可能性があります。そういった意味では高額商品を扱う店舗に向いているのではないでしょうか。

「Wechat Pay」は少額決済に

コミュニケーションアプリから出発した「Wechat Pay」は利用者が多く、中国人になじみのあるサービスですが、すでに広まっている「支付宝」と同じような使い方をする人が増えていくかどうかは微妙なところだと思います。ネット上には「微信は小銭入れ、アリペイは家の財産が入ってる」などというコメントが見られることもあり、比較的手頃な価格の商品を扱う店舗に向いているのではないでしょうか。

<参考>
日本経済新聞:アリババ・テンセント、止まらぬ中国ネット2強(2017/8/19
日経ビジネス:中国モバイル決済、アリペイが日本でぶつかる壁
Financial Times:中国ネット通販アリババが高級車の自販機設置

まとめ

中国のスマホ決済については非常に景気の良い話が聞かれます。その一方で中国政府がネット言論の取り締まりを強化する姿勢も見せている点には懸念が残ります。先日は、「Wechat」がユーザの個人情報を「関連法や規制」に従って中国当局に提供するとのメッセージを表示し、「プライバシーポリシー」に同意するよう求めるようになったと報じられました。

2016年には最高人民法院(最高裁)によって支付宝の残高が差し押さえられるという事例も発生しており、スマホ決済が便利と喜んでいられない状況になりつつあるように見受けられます。行き過ぎた統制が中国社会を揺るがす事態に発展する可能性も否めません。中国人向け決済サービスの導入・運用にあたっては、中国国内の社会情勢も念頭に置く必要があると思います。