Appleが折れてまでApplePayにSuicaを例外対応させた理由

こんにちは、ピピッとチョイス編集部です。みなさんもApple Pay(アップルペイ)に対応した唯一のプリペイド式電子マネーがSuicaであることはご存知かも知れません。今回はそのSuicaを支える技術規格である【FeliCa(フェリカ)の技術的な内容に触れつつ、ApplePayが業界に与えた影響についてお伝えしたいと思います。

ApplePayについて

Apple Pay」とは、AppleがiPhone(iPad)向けにサービス提供している電子マネー機能です。非接触のNFCチップを利用することで、店舗の決済端末にかざすだけで商品やサービス代金を支払う手段に利用できます。(Apple Payの使い方については「ApplePayでSuica(スイカ)利用徹底解剖~基礎・登録編~」の記事を参考にしてください。)

なぜSuicaが例外的に搭載されたのか

2014年にApple Payのサービスが開始された時点では、端末に搭載されていたチップはTypeA/B規格のものでした。この度新しく登場したiPhone7には、FeliCa規格のFeliCa SE(セキュアエレメント)というNFCチップモジュールが搭載されています。

この機能がアクティベートされているのは、日本国内で販売されているiPhone7だけです。つまり、iPhone7の内部にはTypeA/B規格とFeliCa規格の2つのNFCチップが全世界共通で入っているものの、FeliCaチップは日本のSuica向けだけに利用されているということになります。このような例外的な対応を天下のAppleが取ったのは、どういう理由からなのでしょうか。これは筆者の個人的な判断によるところが過分にあるのですが、

  1. Apple製品の日本におけるシェアの高さ
  2. FeliCa規格の技術的優位性

の2つが大きいのではないかと思います。1に関しては、日本におけるスマートフォンのシェアはAppleが約5割近くを占めており、他の主要先進国が2割程度のシェアであることを考えると、Appleが日本に注力するのも頷けます。2のFeliCa規格の優位性に関しては、ガラパゴス化が生んだFeliCa独自の技術力がAppleに認められたという点が大きいと考えています。

FeliCa技術の優位性

ご存知の人も多いかと思いますが、FeliCaの技術は香港の交通システムにおいて、1997年から八達通(Octopus)として運用が開始されています。全体のシェアとしては小さいながらも、FeliCaは実績のある規格として世界的に一目置かれています。今回Appleのお眼鏡に適ったSuicaも、ソニーが開発した非接触ICチップ技術であるFeliCaを利用しています。FeliCaの特徴として挙げられるのが処理速度の速さと信頼性のバランスです。

TypeA/B規格でチップ内に存在する処理ソフトウェアを介した処理と、FeliCa SEモジュールの最適化された処理とを比較すると、処理速度の面ではFeliCaチップに軍配が上がります。ソニーの技術力によって、Suicaは世界最速の0.1秒という圧倒的な処理速度を実現しているのです。

NFCの規格の比較

ごくごく簡単にまとめるとこのようにな比較になる

【用語解説】SE(Secure Elements/セキュアエレメンツ)とは

SEとは、電子マネーの決済時に必要な暗号化情報や、決済アカウントのIDなどを記録したメモリ部、処理を行うプロセッサ部、リーダ/ライタからの電波を受け取るアンテナ部などからなるチップのことです。電子マネーカードのように丸や四角のチップだったり、スマホのSIMカードの内部に搭載されたりします。例えばApple Pay対応のiPhone7の場合、8枚分の電子マネーやクレジットカードのセキュリティ情報を、このSEのメモリ部に保存することが可能です。

VISAとAppleの思惑

ApplePayは主要な暮れジッドカード会社に対応しています。

JCBは国際カードブランの中で唯一ApplePayのHPにロゴが載っている。その他はカードブランドではなく発行会社

この記事の冒頭で「プリペイド式の電子マネーはSuicaのみ」と書きましたが、実はクレジットカードに紐付いたポストペイ型の電子マネーにも対応しており、NTTドコモのiD(アイディー)とQUICPay(クイックペイ)でも利用可能です。ここでクレジットカード業界に詳しい方であれば「iDを運営するNTTドコモと三井住友カード、クイックペイを運営するJCB、トヨタファイナンスの4社が明らかに有利になるのではないか?」と気づくかもしれません。

なぜなら今後Apple Payが更なる普及を見せた場合に、三菱UFJニコスやクレディセゾンなどの国際クレジットカードブランドあってこそのカード会社が、Apple Payでの決済にクレジットカードを介してもらうためには、iDもしくはQUICPayのどちらかに紐付けてもらう必要があるからです。事実、Appleのホームページなどでは、国際カードブランドの中で唯一JCBがApple Pay完全対応としてロゴをどーんと載せています。

VISA Pay-WAVE(ビザ・ペイウェーブ)とは

Visa Pay-Waveは電子マネー機能とクレジット機能が一体になったサービス

国際カードブランドのVISAカードについても述べておくべきことがあります。それはVISAが進めていた「ポストペイ(後払い型)電子マネー機能付きクレジットカードPay-WAVE(ペイウェーブ)」についてです。

「VISA Pay-WAVE(ビザ・ペイウェーブ)」とは、国際カードブランドであるVISAが推進している電子マネーとクレジットカードが一体になったカード(カードが発行されないスマホアプリ版もあり)で、2007年9月(奇しくも「おサイフケータイ」のサービス開始と同時)にサービスを開始しています。対応するNFC規格は日本で主流のFeliCaではなくTypeA/B型で、日本でのサービス開始は2012年11月から。国内で対応しているカード発行会社はオリコ(株式会社オリエントコーポレーション)です。

VISA Pay-Waveはもちろんカード型もある

日本では外国人観光客向けの需要を取り込みたい店舗をターゲットに加盟店を増やしているところだったのですが、如何せん対応しているリーダ/ライタがFeliCaと異なるため、大手チェーン店など以外ではほとんど導入が進んでいません。これに追い討ちをかけるのが今回のiPhone7のFeliCa SE搭載です。

海外版のiPhone7やその他のスマホ、もちろんクレジットカード一体型でも同様にVISA Pay-WAVEを利用している人は、当然TypeA/B型の規格で決済を行っているので、同規格のリーダ・ライタの普及なしに日本での利用は望めません。つまりApplePayとVISAが電子マネー決済プラットフォームにおいては競合関係になっているわけです。

まとめ~今後のNFC規格はどうなっていくのか~

最後に、今後の規格がどうなっていくのかについても補足したいと思います。筆者の考えでは、今はTypeA/BFeliCaのどちらに対応しているかが取り沙汰されることが多いように思います。しかし10年後を考えたときには、そういった区別はなくなっているのではないかと予想します。

そもそもこのTypeA/BFeliCaの規格争いは、国内ではFeliCaがデファクトスタンダードとなっています。また、楽天Edy株式会社などの流通系、三井住友カードなどの銀行系、その他信販系などの会社が、クレジットカード業界同様、電子マネーブランドのシェアにおいても幅を利かせています。しかし今後はTypeA/BFeliCaに両対応したリーダ/ライタやチップが登場し、ユーザーが意識する事なく使えるようになるのではないでしょうか。というより、真にユーザーの事を考えるとそうあるべきです。

もし海外版のiPhoneでもFeliCa SEがアクティベートされ、スマホの制御で利用する通信方式を自動で選んでくれれば、旧来の店舗の端末でも対応できます。技術的にはそこまで難しくないはずです。旧来の国際カードブランドとApple、国内カード発行会社、通信キャリア間の既得権益もあり、なかなか難しいとは思いますが、今回のApple PayのSuica対応は一つの転機となるのではないでしょうか。

<関連記事>そもそもFeliCa(フェリカ)とTypeA/Bって何が違う?